さくら 満つ 月
好きなものつめこみブログ
空飛ぶ広報室 より「blue bird」 
2013/07/27 Sat. 17:01 [edit]
空飛ぶ広報室 より「blue bird」
用意 の合図で踏みしめた。
足はまだ痛む。
それでも。君が背中を押してくれるなら。
高く高く、空を飛ぶ。
威圧感さえただようその大きな門をくぐることに、少しずつ慣れてきたとはいえ、
やっぱり緊張する。リカはふうと深呼吸をして門をくぐった。
エレベーターを降り、いくつか角を曲がる。
航空自衛隊空幕広報室。いつものハンディカメラをもってそこに行けば、誰かが。
個性豊かな面々が迎えてくれるはず、だった。
あれ。リカは一瞬、足を止める。広報室までまだ1つ前の角に、彼の背中があった。
背が高いので見まごうはずもない。そらいさん、と声をかけようとするその前に、別の声がした。
「―――残念だったよなあ。ブルーのパイロットになれなくてよ」
(え・・・?)声の主の顔は見えない。が、声だけリカの耳にも届いた。
大きな声を出すことは躊躇っている。そのくせ相手の心を軽い言葉でもって抉るような、
小さくはっきりした声。
それだけ言い置いて、終わらなかった。
挨拶のように空井の肩にぽんと手を置くと、一瞬ぐっと力がこもる。
「・・・・!」
「ちょっ!」制止のために声を上げたリカの隣を、彼はもうするりとかすめ通り―――。
口角が歪んで上がっているのが見えた。
「稲葉さん」制服のシャツの皺を直すふりをしてさりげなく肩を払ってから、
何もなかったかのようにリカに気づいて声をかけた。
かけた、つもりだった。肩を掴まれて眉間に皺をよせたのも一瞬。彼女にだけは気づかれたくなかった。
「空井さん、今の人」自然 リカの声は硬くなる。
「ああ、訓練生時代の同期ですよ。木嶋といいます。」さらりと流すように空井は言い、
今日は何処を案内しましょうかと広報官スマイルである。
「・・・っ、じゃなくて!」焦れたような、それでいて不安の混ざったような顔をして制された。
空井は我儘にも、ああそんな顔をしてほしいわけじゃないと心の中で叫ぶ。
リカは気がついていた。
わかる。
その言葉にあったのは、敵意だ。
用意 の合図で踏みしめた。
足はまだ痛む。
それでも。君が背中を押してくれるなら。
高く高く、空を飛ぶ。
威圧感さえただようその大きな門をくぐることに、少しずつ慣れてきたとはいえ、
やっぱり緊張する。リカはふうと深呼吸をして門をくぐった。
エレベーターを降り、いくつか角を曲がる。
航空自衛隊空幕広報室。いつものハンディカメラをもってそこに行けば、誰かが。
個性豊かな面々が迎えてくれるはず、だった。
あれ。リカは一瞬、足を止める。広報室までまだ1つ前の角に、彼の背中があった。
背が高いので見まごうはずもない。そらいさん、と声をかけようとするその前に、別の声がした。
「―――残念だったよなあ。ブルーのパイロットになれなくてよ」
(え・・・?)声の主の顔は見えない。が、声だけリカの耳にも届いた。
大きな声を出すことは躊躇っている。そのくせ相手の心を軽い言葉でもって抉るような、
小さくはっきりした声。
それだけ言い置いて、終わらなかった。
挨拶のように空井の肩にぽんと手を置くと、一瞬ぐっと力がこもる。
「・・・・!」
「ちょっ!」制止のために声を上げたリカの隣を、彼はもうするりとかすめ通り―――。
口角が歪んで上がっているのが見えた。
「稲葉さん」制服のシャツの皺を直すふりをしてさりげなく肩を払ってから、
何もなかったかのようにリカに気づいて声をかけた。
かけた、つもりだった。肩を掴まれて眉間に皺をよせたのも一瞬。彼女にだけは気づかれたくなかった。
「空井さん、今の人」自然 リカの声は硬くなる。
「ああ、訓練生時代の同期ですよ。木嶋といいます。」さらりと流すように空井は言い、
今日は何処を案内しましょうかと広報官スマイルである。
「・・・っ、じゃなくて!」焦れたような、それでいて不安の混ざったような顔をして制された。
空井は我儘にも、ああそんな顔をしてほしいわけじゃないと心の中で叫ぶ。
リカは気がついていた。
わかる。
その言葉にあったのは、敵意だ。
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空飛ぶ広報室 より「ひこうき雲空の下」 
2013/07/14 Sun. 23:48 [edit]
空飛ぶ広報室 より「ひこうき雲空の下」
よく晴れた日だった。
「ランチ、行ってきまーす」
まるで仕事の間のその時間だけを楽しみに待っているかのような珠輝は、
小ぶりのバッグを持ってデスクからひらりと背を向け、フロアを出て行く。
「あ、待って珠輝」その軽やかな足取りを呼びとめたのはリカ―――稲葉リカだった。
「珠輝の企画さ、もうちょっと打ち合わせして詰めとかない?」
休憩時間まで仕事の話ですかぁ~?などど、若者独特の間延び言葉で反発したものの、
「与えられた仕事しかしない」姿勢で割りきっていたころの珠輝とはひとつ違っていた。
渋々という表情を残しながらもリカと一緒にテレビ局の外まで連れ立って行く。
「・・・あれは・・・あいつらはそんなに仲良くなったのか」
一番上座の席から小首をかしげながらしかし面白いものを見るように阿久津が言う。
あれは、と言いながらリカと珠輝の机をちっちと指でさした。
受けたのは藤枝である。
彼の所属は報道局だが、リカの所属する情報局との打ち合わせがあって、同じフロアにいた。
「仲良く・・・と、いうか、佐藤も感化されたんでしょうね、稲葉に」
「ああ」
それならわかる、と阿久津は納得顔だ。稲葉はそれだけの仕事をするようになったし、
技術だけでない、心のこもった仕事をするようになっていた。
いつか稲葉が、空幕広報室長の鷺坂からもらったといって口にした言葉を思い出す。
「仕事は、“場”が育てるんですって」
「俺も、か」
やりたい仕事に挑戦しようとして、上手く行かなくて。
失敗して、折れかけた。諦めかけたところを叱咤されたそれ以来。
―――稲葉は俺の同志だ。
よく晴れた日だった。
「ランチ、行ってきまーす」
まるで仕事の間のその時間だけを楽しみに待っているかのような珠輝は、
小ぶりのバッグを持ってデスクからひらりと背を向け、フロアを出て行く。
「あ、待って珠輝」その軽やかな足取りを呼びとめたのはリカ―――稲葉リカだった。
「珠輝の企画さ、もうちょっと打ち合わせして詰めとかない?」
休憩時間まで仕事の話ですかぁ~?などど、若者独特の間延び言葉で反発したものの、
「与えられた仕事しかしない」姿勢で割りきっていたころの珠輝とはひとつ違っていた。
渋々という表情を残しながらもリカと一緒にテレビ局の外まで連れ立って行く。
「・・・あれは・・・あいつらはそんなに仲良くなったのか」
一番上座の席から小首をかしげながらしかし面白いものを見るように阿久津が言う。
あれは、と言いながらリカと珠輝の机をちっちと指でさした。
受けたのは藤枝である。
彼の所属は報道局だが、リカの所属する情報局との打ち合わせがあって、同じフロアにいた。
「仲良く・・・と、いうか、佐藤も感化されたんでしょうね、稲葉に」
「ああ」
それならわかる、と阿久津は納得顔だ。稲葉はそれだけの仕事をするようになったし、
技術だけでない、心のこもった仕事をするようになっていた。
いつか稲葉が、空幕広報室長の鷺坂からもらったといって口にした言葉を思い出す。
「仕事は、“場”が育てるんですって」
「俺も、か」
やりたい仕事に挑戦しようとして、上手く行かなくて。
失敗して、折れかけた。諦めかけたところを叱咤されたそれ以来。
―――稲葉は俺の同志だ。
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「空飛ぶ広報室」よりPandra's box 
2013/07/07 Sun. 18:19 [edit]
Pandra's box
すべての災いが詰まった箱を
ぐるぐるに縛って、頑丈に鍵をかけて、
自分でももう二度と触れられないように。
深い、深い闇の底に、沈めた。
空に放り投げることなんかできない。
俺はもう、飛べないんだ。
誰にも、触られたくないと、触れられたくないと思ってた。
自分でも、鍵の在処を忘れてしまって。
探さなくても、見つからなくてもいいや。
そう、思っていた。のに。
「俺は・・・・っ、人を、――――人を殺したいと思ったことなんて、一度もありません!」
怒りしか湧かなかった。
一瞬たじろいだように見えたあなたの瞳はそれでもなお、
隙あろうものならいつでも看破してやろうという強気さで。
俺はそれにすらまた腹を立てた。
その瞳を見たときもうすでに俺はあなたを、なんて、そうは言わない。
それは嘘になっちゃうけれど。
でも、あのとき確かに、心の音を聴いたんだ。
大事に大事に抱えすぎて、ぼろぼろになってしまった箱の。
箱の鍵が、開く音。
痛みも、怒りも、辛さも、悲しみも
全部、全部涙になって。
こどもみたいに、あんまり泣いたら。
箱のなかに残った もの は。
さて、何でしょう ?
「・・・・いなばさん」
大事に大事に 抱きしめて、もう二度と離さないようにと。
いつでもそばにあって。いつだって分かち合いたい。
その名は、“ 希望 ”
fin
Pandra's box あとがき。ドラマ「空飛ぶ広報室」より。空井二尉独白。
「パンドラの箱」からいただきましたネタ。
「パンドラの箱」に災厄が入っていて、それを開けると中身があふれだして、最後に残ったのは希望
という神話。それによると、「パンドラの箱」は、触れてはいけないものとして描かれているようです。
その意味から考えると真逆だな。
大事にしておきたいもの。←独占欲 でも可かもしれませんね空井さん←
空井さんにとって稲ぴょんは同志であり希望であり。
就業中にふとぼんやり「・・・いなばさん」などと口走ってしまい、聞きつけた片山一尉に首根っこつかまれ、
「稲ぴょんと何があった!吐けー!」とからかわれたのはまた別の、話。
すべての災いが詰まった箱を
ぐるぐるに縛って、頑丈に鍵をかけて、
自分でももう二度と触れられないように。
深い、深い闇の底に、沈めた。
空に放り投げることなんかできない。
俺はもう、飛べないんだ。
誰にも、触られたくないと、触れられたくないと思ってた。
自分でも、鍵の在処を忘れてしまって。
探さなくても、見つからなくてもいいや。
そう、思っていた。のに。
「俺は・・・・っ、人を、――――人を殺したいと思ったことなんて、一度もありません!」
怒りしか湧かなかった。
一瞬たじろいだように見えたあなたの瞳はそれでもなお、
隙あろうものならいつでも看破してやろうという強気さで。
俺はそれにすらまた腹を立てた。
その瞳を見たときもうすでに俺はあなたを、なんて、そうは言わない。
それは嘘になっちゃうけれど。
でも、あのとき確かに、心の音を聴いたんだ。
大事に大事に抱えすぎて、ぼろぼろになってしまった箱の。
箱の鍵が、開く音。
痛みも、怒りも、辛さも、悲しみも
全部、全部涙になって。
こどもみたいに、あんまり泣いたら。
箱のなかに残った もの は。
さて、何でしょう ?
「・・・・いなばさん」
大事に大事に 抱きしめて、もう二度と離さないようにと。
いつでもそばにあって。いつだって分かち合いたい。
その名は、“ 希望 ”
fin
Pandra's box あとがき。ドラマ「空飛ぶ広報室」より。空井二尉独白。
「パンドラの箱」からいただきましたネタ。
「パンドラの箱」に災厄が入っていて、それを開けると中身があふれだして、最後に残ったのは希望
という神話。それによると、「パンドラの箱」は、触れてはいけないものとして描かれているようです。
その意味から考えると真逆だな。
大事にしておきたいもの。←独占欲 でも可かもしれませんね空井さん←
空井さんにとって稲ぴょんは同志であり希望であり。
就業中にふとぼんやり「・・・いなばさん」などと口走ってしまい、聞きつけた片山一尉に首根っこつかまれ、
「稲ぴょんと何があった!吐けー!」とからかわれたのはまた別の、話。
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